東京三菱銀行横浜支店
(旧川崎第百銀行横浜支店)


東京三菱銀行横浜支店は、川崎第百銀行の支店として昭和9年に建てられました。
渦巻き状の柱頭が特徴である、イオニア式に則った古典的なもので、
同じ様式で建てられた、ご近所の三井住友銀行としばしば比較されたりもします。
こちらには、三井のような柱の溝がなく、ややあっさりとした感じは否めないものの、
要所にちりばめられた浮き彫りの飾りが、建物を華やかに演出しています。
内部は、銀行建築の特徴のひとつである吹き抜け構造による大空間がひろがり、
装飾も外観に負けず劣らずの華やかさです。
特に、照明とケーソンで埋め尽くされた天井の美しさは圧巻。
その他にも、壁面や建具も当時のものがそのまま残されていて、
大切に使われていた様子が感じられました。

設計者の矢部又吉は横浜に生まれ、地元の元街小学校に入学。
その後、立教中学から工手学校(現在の工学院大学)の建築科に進みます。
(妻木頼黄に師事したのは、工手学校在籍中か?)
卒業後、18歳でドイツのシャルロッテンブルグ工科大学に入学し、
この留学時には、R.ゼールとゼーリングが開設した設計事務所にも勤務します。
(又吉の父、国太郎もゼールに師事しています。)
ゼールは、又吉が生まれた明治21年に来日し、山下町界隈の銀行やホテルなどの設計を手がけた、居留地建築家。
銀行建築のノウハウは、このゼールから学び取ったのでしょうか。
独立後は、川崎銀行の支店建設をはじめとする川崎財閥関連の建築を一手に引き受け、
その名を全国区に残すこととなります。
昭和16年、建築家としてはまだまだ活躍のできる53歳の若さで亡くなっています。(仁木)

※残念ながら、東京三菱銀行各支店の統合により、土地建物はマンション建設会社に売却となりました。
その後、横浜市や日本建築家協会等からの強い要望により、ファサード部分の保存が決定。
マンション新築に際しては、現在の外壁を取り込んだ形で建設が進められることとなりました。

Data
所在地:横浜市中区本町4-41
構造:R.C.3階(大部は吹抜) 地下1階
設計:矢部又吉
施工者:戸田組
建築年代:昭和9年
備考:横浜市認定歴史的建造物







 2階の廻り廊下。天井や壁面の装飾が間近で見ることができて感激しました。


廻り廊下からの眺め。

1階営業室の各柱に取り付けられた照明。

ケーソンの拡大写真。貧弱な発想ですが、デコレーション・ケーキのようでした。(笑)

内部の階段。お客用でなかった分、
いじられていない感じがしました。

外からは気がつかなかった六角形の煙突。
手前は階段室。            



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